海外旅行前に知っておきたい医療情報

搬送ドクターは麻酔科、ICU専門医、ナースはICU勤務の看護師が適任です

法外な料金請求に要注意

海外で医師と看護師のチームによる航空医療搬送の対象となるのは、「重症疾患患者」か「重症外傷患者」で、「自力で移動が不可」かつ「移動中に急変する可能性のある病態である」場合となっています。具体的には、脳卒中、心筋梗塞、重症交通事故の患者ですが、海外の治療目的のための心筋症や重症のがん患者のケースもあります。

原則として、ICU(集中治療室)からICUへの搬送となります。しかし現実には、決して重症とはいえない骨折患者を搬送したり、頚椎損傷で医師・看護しつきのストレッチャー搬送の患者が歩いて飛行機から降りてきて、受け入れ先の病院を2日で退院したケースなど、厳格なメディカルルールを持たない業界では、かなりいい加減な医療搬送も少なからず存在しています。

搬送のタイミングを判定する際には、主治医からの情報を元に適切なセカンドオピニオンを入れて行いますが、手術のタイミングと同様に、これを誤ると取り返しのつかない状況が起こります。

日本には、医療搬送ジェット機を持つ組織はありません。したがって、定期便にストレッチャーを組むか、ファーストもしくはビジネスクラスのシートを使って医療搬送を行いますが、乗客感染リスクを有する患者、フライト中に死亡する可能性の高い患者などは、搬送できません。また搬送には以下の手配が必要となります。

医療手配:搬送医師、看護師の手配、医療器材、すなわち航空機内用のレスピレータ、ポータブル吸引器、モニター機材(パルスオキシメータ、血圧計、心電計など)、アンビュバック、医薬品、すなわち点滴液、H2ブロッカーなど、通常使用薬剤とボスレン、ステロイド、抗不整脈などの緊急薬剤一式が含まれます。

これらは、軽量でかさばらず、医療機器としては、航空機の運航に支障がないことが事前に承認されている機種であることが必要です。そして、通関の際にトラブルの無いように、英文での通関用薬剤および医療機器証明書を用意しておくことが求められます。

受け入れ先病院の手配:受け入れ先の病院は患者本人や家族の希望で決定されることがほとんどです。しかし、ケースによっては帰国してすぐに入院できる病院の集中治療室(ICU)で、数日から数週間治療した上で、家の近くの病院に移動するケースもあります。

搬送医師と看護師:本来の航空医療搬送はICU⇒ICU搬送ですから、呼吸管理と循環管理のプロである熟練した麻酔科医、またはICU専門医が適任です。当然、旅行医学としての航空医学の知識も必要です。看護師は、脳外科、整形外科、外科など、オールラウンドな管理に通じたICU勤務の現役看護師が適任です。不安の中にいる家族にも気配りできる人がいれば理想です。

業者(アシスタント会社や保険会社):業者任せは、ハイリスクと搬送後に法外な料金請求がなされるケースがしばしばあります。海外へ出かけた国民に対して、患者の安全を第一に考えた医療システムを、国の機関としてバックアップしている先進国の例は多々あります。日本でも、日本旅行医学会活動の精神に沿って活動している医師グループが、患者の安全を第一に考えた重症医療搬送を行っていますが、それ以外は利益追求のみに偏った業者活動に頼らざるを得ず、トラブルになったケースも報告されています。